マレーシアを旅していると、街路樹やビル、ショッピングモールの入口など、あちこちでマレーシアの国旗を見かけます。
赤と白のしま模様に、青い四角、黄色い月と星。これがマレーシアの国旗「ジャルール・ゲミラン(Jalur Gemilang)」です。
「Jalur」は「縞(ストライプ)」、「Gemilang」は「栄光・輝かしい」という意味で、英語では「Stripes of Glory(栄光のストライプ)」と訳されることが多いようです。
このマレーシア国旗のデザインの意味・歴史・掲げるときのマナーなどを調べてみました。
マレーシア国旗の基本データ
まずはマレーシアの国旗「Jalur Gemilang(ジャルール・ゲミラン)」のプロフィールを。
- 正式名称:Jalur Gemilang(ジャルール・ゲミラン)
- 意味:栄光の縞(Stripes of Glory)
- 国旗としての採用:
- 1950年:当時のマラヤ連邦の国旗として採用
- 1963年:マレーシア成立に合わせ、現在の14本の縞と14角星に変更
- 縦横比:1:2(縦1に対して横2の長方形)
今私たちが見ている国旗は、1950年に生まれ、1963年に現在の形に整ったものということになります。
デザインに込められた意味
マレーシア国旗は、シンプルなようでいて、実は一つ一つの要素に明確な意味があります。
パーツごとに見ていきましょう。
14本の赤と白のストライプ
旗全体には、赤と白の横ストライプが14本描かれています。
この「14」という数字には次のような意味があります。
- マレーシアを構成する13州
- それらをまとめる連邦政府・連邦直轄区
州と中央政府が対等なパートナーとして協力していることを表しています。
赤色と白色の意味
- 赤:勇気、困難に立ち向かう強さ
- 白:純粋さ、公正さ
日本の国旗も「白=純粋さ」「赤=太陽」などの意味がありますが、マレーシアでも色にしっかりとした意味があるのですね。
左上の青い四角(カントン)
左上の青い部分は、英語で「カントン(canton)」と呼ばれます。
ここは国民の団結(unity)を表しており、マレー系・中華系・インド系など多民族が共存する国であるマレーシアの姿を象徴しています。
黄色の三日月
青いカントンの中には、右を向いた黄色の三日月が描かれています。
この三日月は、マレーシアの国教であるイスラム教を表しています。黄色は「マレー系の王室の色(王権・君主制)」であり、イスラム教と王室がこの国の重要な柱であることを示しています。
14角の星(連邦星)
三日月の左側には、14の角を持つ星が描かれています。
この星は「連邦星(Bintang Persekutuan)」と呼ばれ、
- 14本のストライプと同じく、13州+連邦政府の一体感
- 州と連邦の協力と調和
を表しています。
4色が持つ意味をまとめると
| 色 | 意味 |
|---|---|
| 赤 | 勇気・覚悟 |
| 白 | 純粋さ・清潔さ |
| 青 | 国民の団結 |
| 黄色 | 王室・君主の権威 |
4色すべてを合わせると、
「王室とイスラムを中心に、多民族の国民が団結し、勇気と純粋さを持って国を支える」
というメッセージになると言えます。
誕生の背景と歴史
次に、マレーシア国旗がどのように生まれたのかを、時系列で見ていきます。
1949年:公募でデザインを募集
第二次世界大戦後、イギリス領だったマラヤは「マラヤ連邦」として自治を進めていました。
1949年、連邦立法会議が「新しい連邦の旗を作ろう」と決め、国旗デザインのコンペが行われます。
応募は300件以上。その中から3案に絞られ、新聞での一般投票を経て、現在のデザインの原型となる案が選ばれました。
デザイナーは若い建築士、モハメド・ハムザ氏
採用された案を描いたのは、当時まだ20代だった建築士「モハメド・ハムザ(Mohamed Hamzah)氏です。
彼はジョホール州の公共事業局で働いており、短期間で複数の案を描き上げたと言われています。
勝ち残った案はそのまま採用されたのではなく、
- 色の組み合わせ
- 月と星の色
- 星の角の数
などが議論され、現在に近い形へと調整されました。
1950年:マラヤ連邦の旗として初掲揚
調整を経て、1950年5月26日に新しい旗が正式に承認され、同年にマラヤ連邦の旗として掲げられます。
当時は「11本のストライプと11角の星」で、マラヤを構成していた11州を表していました。
1963年:マレーシア成立とともに「14」に
その後、1963年にサバ・サラワク・シンガポールが加わり、「マレーシア」が成立します。
これに合わせて、国旗も次のように変更されました。
- ストライプ:11本 → 14本
- 星:11角 → 14角
シンガポールは後にマレーシアから独立しますが、ストライプと星はそのまま14のまま残され、
現在は「13州+連邦政府・連邦直轄区」を象徴するものとされています。
1997年:「ジャルール・ゲミラン」という名前が正式に
実は「Jalur Gemilang」という名前がついたのはわりと最近で、1997年8月31日(独立40周年)です。
当時の首相マハティール・モハマド氏が国民から名前を公募し、その中から選ばれました。
それまでは単に「国旗(bendera kebangsaan)」と呼ばれることも多かったのですが、
現在ではニュースや学校、イベントでも「Jalur Gemilang」という名称が広く使われています。
国旗を掲げるときのマナーとルール
マレーシアの国旗には、法律とガイドラインに基づく扱い方があります。
関係する法律
国旗の不適切な使用については、
「Emblems and Names (Prevention of Improper Use) Act 1963」という法律で規定されています。
故意に国旗を傷つけたり、侮辱的な形で使ったりすると、罰金や禁錮刑の対象になる場合があります。
よく言われるマナー
新聞や政府機関、メディアなどで紹介される「国旗マナー」には、次のようなものがあります。
やってはいけないこと(例)
- 国旗を逆さまに掲げる
- 破れたり汚れたりした旗を掲げる
- 地面に引きずったり、足で踏んだりする
- 通常の国旗を、服やマスクなど身につけるアイテムにそのまま使用する
- コマーシャルに使うため、デザインを大きく改変する
気をつけたいポイント
- 横向きに掲げるときは、左上に青いカントンが来る向きが正しい
- もし縦に掲げる場合は、特別なバナー型のデザインを用いることが推奨される
- 夜間も掲げるなら、ライトで照らすのが望ましい
一般の家庭がベランダに旗を掲げる程度なら、
「向きを間違えない」「きれいな旗を使う」
この2点を守れば問題になることはほとんどないと考えられます。
1年の中で国旗が一番映える季節
マレーシアでは、1年を通して国旗を見る機会がありますが、特に街が国旗だらけになるのが8〜9月ごろです。
8月31日:独立記念日(Hari Merdeka)
1957年8月31日、マラヤ連邦がイギリスから独立しました。
この日を記念する「ハリ・ムルデカ(独立記念日)」は、マレーシア最大級の祝日です。
- 首都クアラルンプールでは軍や警察、学生などが参加するパレード
- ショッピングモールや高速道路沿いに大量の国旗
- 一般家庭やマンションのバルコニーにもJalur Gemilang
と、国中が国旗でカラフルになります。
9月16日:マレーシア・デー(Malaysia Day)
1963年9月16日、マラヤ・サバ・サラワク・シンガポールが合流し「マレーシア」が誕生しました。
これを記念するのが「マレーシア・デー」です。
8月31日の独立記念日と並んで、国旗が特によく掲げられる日になっています。
旅行者・在住者が知っておくと楽しいポイント
ここからは、マレーシアに観光や留学・駐在で滞在する人向けの「ちょっとした豆知識」です。
国旗モチーフのグッズが豊富
- 国旗柄のキーホルダー、マグネット、Tシャツ
- 国民的サッカーチーム「Harimau Malaya」の応援グッズ
- ナショナルデー前後に売られるミニ旗やステッカー
など、Jalur Gemilangをモチーフにしたアイテムがたくさん売られています。
お土産としても選びやすく、「マレーシアらしさ」が一目で伝わるのでおすすめです。
他国の国旗との意外な共通点
マレーシア国旗は、
- 赤と白のストライプ
- 青いカントン
という点で、アメリカ国旗と似た雰囲気があります。
ただし、マレーシアではイスラム教と王室を象徴する三日月と星が入っている点が大きな違いです。
同じ「ストライプ+星」の組み合わせでも、国によって意味はかなり異なることが分かります。
州旗との見比べもおもしろい
マレーシアには13州あり、それぞれに州旗があります。
色づかいやモチーフは州によってバラバラですが、
- 三日月と星
- 赤・黄・白の王室カラー
など、国旗と共通する要素も多くあります。
もし長期滞在するなら、住んでいる州の旗も覚えておくと、ニュースやスポーツ中継を見るときにより楽しめます。
Jalur Gemilangに込められたメッセージ
ここまで見てきたポイントを簡単にまとめます。
- マレーシア国旗は「Jalur Gemilang(栄光のストライプ)」と呼ばれる
- 14本の赤と白の縞と、14角の星は、13州+連邦政府の団結と対等な関係を象徴している
- 黄色の三日月と星は、イスラム教と王室を表す
- 現在の形は1963年のマレーシア成立時に確定し、1997年に現在の名前が公式に付けられた
- 国旗の扱いには法律とマナーがあり、向き・状態・使い方に注意する必要がある
- 独立記念日(8月31日)やマレーシア・デー(9月16日)前後には、国中がJalur Gemilangで彩られる
Jalur Gemilangは、単なるデザインではなく、多民族国家マレーシアの歴史・宗教・政治体制・国民の誇りがぎゅっと詰まったシンボルです。
マレーシアに旅行する人も、在住者も、
- 「なぜ14本の縞なのか」
- 「なぜ三日月と星なのか」
といった背景を知っておくと、街角でなびく国旗を見たときの感じ方が少し変わってくるはずです。


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